新米学校司書がゆく!ぎばのブログ

本のページをめくるように、日々をワクワク過ごしたい。

これを読んでいるあなた。そう、あなたですよ。:かいぞくポケットとぼくは王さま

こんにちは、ぎばです。

昨日は娘がまた学校図書館で本を借りてきました。

 

それ見たことあるけど読んだことない!と思わず叫んだ

娘が習い事に行ったすきにちょっと拝借し、読みました。そして夜、

「ママ、ポケット読んだよ~」

と言ったら、

「私より先に読まないでよ!」

と怒られました。

あと、本を開いた状態で伏せていたのを見られ、「その本の置き方はだめだよ。ちゃんとしおりを挟むか、ページを覚えるかして」と注意されました。その通りです。本が傷んでしまうのでやめましょう。ダメ、ぜったい。

 

ポケットは子どもの海賊です。ジャン、ケン、ポンという三人の手下と、アイコという猫と共に船で旅をしています。そんなある日、人が乗ったいかだを発見。その人は大学教授で、”魔女学”を研究しているとか。魔女のほうきがなぜ飛べるのか、どのような材料を使っているのか調べているというのです。話を聞くうちにポケットたちはあることに気づき、不思議な人魚の森にまよいこみます…

 

この本には面白い仕掛けがありました。章の終わりに、作者から読者に向けて様々なことを呼びかけるのです。

 

魔女のほうきのえだなど、あるのだろうか?ガンガラムティの島は…?きみもそれをしりたいだろう。しりたかったら、ここで、ほうきをもって、じぶんのへやをそうじしなさい。きれいになったら、つぎをよんでよろしい。

(『人魚となぞの木』より)

 

突然の呼びかけに、読んでいた子どもはびっくり&くすりっ。まるでその物語の中に、自分も仲間入りしているような気持ちで次のページを開くことができます。

 

初めて読んだのが9巻目だったためか、前作で書かれていそうな設定がちらほら見えました。猫のアイコがどこから来たのかとか、なぜポケットだけ子どもなのかとか。

全体的にかわいいイラストと、個性的な登場人物で、小学校低学年には読みやすそうだなぁという印象でしたが…寺村輝夫さんといったらやっぱり王さまです。何を隠そう、私は王さまシリーズの大ファン。あの、ひげの生えた王さまがやっぱり大好き!

これこれ!このイラストもかわいいのです。

知ってる!読んだことある!という人も多いと思います。寺村さんは、1956年に初めて『ぞうのたまごのたまごやき』を発表され、ぼくは王さまシリーズが初めてのシリーズ作品なんだそうです。その後、かいぞくポケットやわかったさんなども執筆されていますが、私はもうその時には対象年齢じゃなかったのかしら、ほかのシリーズはほぼ読んだことがありませんでした。

 

この王さま、ひげも生えてますしおそらく大人なんでしょうけど、ほんとうにこどもみたいなんです。わがままで、いばりんぼうで、くいしんぼうで、勉強は大嫌い。卵料理が大好きで、いつも家来たちに文句ばかり言っています。でも、大臣やそうじのおばさんなど、王さまのわがままに負けない手強い家来も多く、王さまに対して至極もっともなことを言ったりするのが面白い。そしていつもいつも、王さまのわがままでとんちんかんな振る舞いが、妙な事件を巻きおこしてしまうのです。単純明快ハッピーエンドかと思いきや、星新一さん的な不気味さの残るお話などもあり、夢中で、何度も読みました。

 

あなたがよくしっている、王さまの話です。

たまごのすきな、王さまです。たまごやきなら、一日に五つでも六つでも、喜んで食べるのです。

ところが、やさいが大きらい。とくに、たまねぎと、ピーマンと、にんじんは、サラダの中に一かけらはいっていても、

「こんなまずいもの、食べられるか。」

と、おさらごとほうりだしてしまいます。

だれかさんに、よくにている王さま。

(『ぼくは王さまごちそうコレクション』ガルメ星のどく より)

 

”あなた”や、”だれかさん”など、王さまシリーズでも、読み手を仲間に入れてくれるような書き方が見られます。この感じがとても嬉しいんですよね。読んでいて思わずにやりとしたくなる。物語がぐっと身近に感じられ、もっと読みたいと夢中になるのでしょう。

 

よく聞く「最近の若者は―――」ではありませんが、最近の絵本や児童書は、とってもとっても優しい世界が描かれているものが多いような気がします。よい子、よい人、愛のある物語、大丈夫だよ、愛しているよ、きらきらでふわふわ…もちろんそれも大事。特に乳幼児期は、そういう温かいイラストや物語に触れることで心を豊かにするでしょうし、安心感や情緒を育むだろうと思います。でも、ある程度自分で文字が読めるようになってきたら、あえて意地悪な世界に足を踏み入れておくことも大切ではないでしょうか。

 

わがままな主人公が鼻をくじかれたり、ちょっぴり怖い目にあって反省したり、失敗して泣いたり怒ったり。友達と喧嘩したり、傷つくことを言ったり言われたり…。昔読んだ子どもの本の中には、とても怖い話や救われない話も結構ありましたし、読んだ後で考えさせられるような重い話も普通にありましたよね。大人になるにつれ、読書の世界ももちろんですが現実世界も難しくなっていきます。人間関係が複雑になり、ひとりひとりの個性や能力がはっきりしてきて、挫折したり悩んだりすることも増えます。そんな時、ずっときれいで優しい世界にだけいた子どもは、何もない崖下に急に放り出されることになって人一倍辛いと思うのです。だから絵本や児童書を通して、様々な経験をしてほしい。小さな意地悪や失敗、ちょっぴり怖いことを読書を通して経験していると、心の中に少しずつ階段が作られていって、やがて大人になって現れる崖を登るのが少し楽になるような気がするのです。

 

王さまシリーズは大人が読んでも面白いです。久しぶりに読んだとき「え、こわ…」と思いましたが、それがくせになるのでしょうか。あと、無性にふわふわのオムレツが食べたくなります。そう、だれかさんみたいにね。